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吉田の火祭り2017レポ やまなしの夏を秋へとつなぐ。 (Summary of Yosida's fire festival)

吉田の火祭り_Top 空を焦がす大きな火柱。通りを埋め尽くす人や店の賑わい。
 そんな二つの光景がクロスする瞬間がイメージ出来ない方も居るのでは無いでしょうか。
 そう、山梨にはそれを地でいくお祭りが毎年開催されているんです。
 日本に住んでいるなら、一度は体験したい三大奇祭のひとつ。
 2017年の8月26~27日に開催された「吉田の火祭り」をレポートします。himatsuri_01.jpg

山梨の夏の終わりを告げる一大イベント

 26日14時頃。北口本宮富士浅間神社のエリアにまっすぐ通る参道は既に多くの人で埋まります。
 山梨県内のお祭りの中でも最高クラスの人だかり。
  後ほど火が灯されることになる3メートルもの大きな松明(たいまつ)が立ち並び、集まった人とその時を待っています。その数、およそ70本。胸が高鳴ります。
 趣向が凝らされた様々な屋台もお祭りの早い段階から大繁盛。今年は特に「電球ソーダ」が若い世代に大人気です。飲食のトレンドの移り変わりも祭りの面白いところですね。

 「吉田の火祭り」は、夏の富士山の山じまいのお祭りとして毎年8月26日、27日におこなわれます。必ずその2日間で開催され、雨天でも決行されるという非常に由緒正しい例祭なのです。
 もともとは浅間神社ではなく、500年もの歴史をもつと言われる諏訪神社をルーツに持っています。江戸時代に編さんされ現在でも山梨県の貴重な郷土研究史料となっている「甲斐国誌(かいこくし)」には、上吉田地区の産土神(うぶすながみ)であり、浅間神社の社司(しゃし)や御師(※)が関わってきた祭りであると記されています。浅間神社を出る御神輿が表通りへと進みながら氏子町内をぐるっと廻り、上吉田エリアが一晩中巨大な火柱で埋まります。
 (※おし=特定の寺社に所属して、その社寺へ参詣者を案内し、参拝・宿泊などの世話をする人のこと)

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高まる鼓動。大きな御神輿が進む。

 さて、日がそろそろ沈もうかという頃。浅間神社と諏訪神社では、御神輿で神様が移動してもらう事を願う本殿祭(ほんでんさい)や諏訪神社祭が催行され、辺りの空気感が段々と変わってきます。ドン...ドン...と鳴り響く太鼓。御神輿がそろそろ動き出すぞ、と気配を感じ出すと、参道に集まった黒山の人だかりは首を伸ばして一斉に神社の方に目を凝らします。日本中には様々なお祭りがありますが、一般の来場者にとっては、世界遺産の富士山をバックにして御神輿のシルエットを探すことから始まるお祭りなんて、きっと吉田の火祭りだけでしょう。ドンッ...ドンッ...。御神輿と御影(※)と共に、太鼓の音も近づいてきます。
(※みかげ=吉田の火祭りでは、富士山をかたどった大きなオブジェを指す。御神輿と一緒に上吉田を練り歩く。)himatsuri_03.jpghimatsuri_04.jpg

御神輿の屋根には鳳凰が鎮座します。

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御影の御神輿。勢子の皆さんも鬼気迫る様相。

知る人ぞ知る、鳳凰のクチバシ

 大松明に火が灯された光景だけが毎回クローズアップされがちですが、御神輿が参道のほぼ中間地点に位置する御旅所に辿りつく瞬間から、この例祭が本格的に始まると言ってもいいでしょう。御旅所近くに張られたしめ縄を御神輿の屋根に立つ鳳凰のクチバシで切って中に入ります。「下げろ!もっと下げろ!」「皆さん離れて!」「行くぞ!」御神輿を担ぐ勢子(せこ)たちが大きく声を掛合いながら縄と鳳凰のクチバシをぴったり合わせ、巧く押し切るのです。himatsuri_06.jpghimatsuri_07.jpg

 その瞬間の盛り上がりたるや。これがまた、なんとも言えない吉田の火祭りのひとつの醍醐味とも言えます。混みに混み合うお祭りの最中にこの御旅所入りのシーンを直接観るのは至難の技。運よく場所に立ち合えた観衆からは大きな歓声が上がります。筆者の隣に陣取っていたカメラマンさんは、写真を撮るのを忘れて思わずその瞬間魅入ってしまっていました。...無理もありません。特別な瞬間ですから。

燃え盛る上吉田。心は夜通し踊る。

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 大松明に一斉に点火されると、街中はまさに「火の海」として例えようの無い状態になります。現場は写真で伝わるよりも、何倍も暑く、大迫力。想像してみてください。通りは淡々と、そして轟々と大きな火柱で埋め尽くされているんです。初めて来場した方は、少し心配になるレベルの光景です。(もちろん現場は安全に管理されています!)お祭り自体は夜遅くまで賑わい続けますが、一番火が高いピークは午後8時~9時頃。まだ観たことの無い方は、是非来年をお楽しみに。himatsuri_09.jpghimatsuri_10.jpg

 「この2日間は短い吉田の夏の終わりを告げる一大行事であるとともに、世話人と呼ばれる14名の方を中心にして、地元の人々が1年かけて力をつくした熱い想いのこもったお祭りなんです。以前、私の身内も世話人を受けたので、その影の努力を間近にみた1年だったのを覚えています。本当にこのお祭りが終わると、不思議とすっと気温も下がります。吉田に住む人間にとって、一年の中で本当に大切な行事なんですよ。」
 御旅所からほど近いところで富士山にちなんだ雑貨店を営んでいる花輪さんは、燃え続ける大松明を眺めながらそう教えてくれました。himatsuri_11.jpg

 パパに肩車をされて、遠くまで続く大松明の列を口を開けて眺める子供。おばあちゃんに手を引かれ、屋台に並ぶジューシーな焼き鳥やお菓子を買ってもらう子供。ビール片手に盛り上がる海外からの観光旅行グループ。幸せそうに寄り添って、スマホで2ショットを撮るカップル。汗を滴らせながら今年の火柱を見守る氏子の面々。
 色とりどりの人間模様を晩夏の夜空に映すように、今年の上吉田も煌々と燃え上がっていました。

【Fin】

Article written by New Attitude

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