
『二重スリット実験』〜観測すると世界が決まる⁉知るとぞっとする世界でもっとも美しい実験
世界でもっとも美しい実験と評される『二重スリット実験』。観測すると世界が決まる⁉
量子の振る舞いはとても不思議。当初、物理学者さえその真偽を判じかね、四半世紀に亘り検証実験が繰り返されてきました。
今回はそんな二重スリット実験について、とある山梨在住の科学好きが友達に教えているので、その会話を聞いてみましょう。

二重スリット実験を理解するには、まず「粒」と「波」という2つの形を知る必要がある

粒?波?

とうもろこしで言えば、粒としてシャキッと立ってるか、ポタージュでのペーっとしているか

ん?

クラスで当てられたときは粒としてシャキッとするけど、全校集会では波みたいでしょ

たとえが独特・・・

下の図みたいに、壁を2枚置いて手前の壁にはすき間を作る

すき間。英語でスリットね

そう。手前からボールをスリットめがけてたくさん投げる。そうすると、スリットを通り抜けたボールだけが後ろの壁に当たって、こんな筋ができるよね


じゃあ次に、そのスリットを2つにしたらどうだろう?

後ろの壁には2つの筋ができる

当たり


二つのスリット。これが二重スリットの名前の由来ね!

うん!


じゃあ次に、プールで考えてみるよ


黒丸のところで波を起こすと、波はスリットを抜けて奥の壁に、やはり一本の筋を作る。そこが一番強く当たる場所だから。じゃあ、これが二重スリットだとどうなる?

分からない。2つの筋ではなさそうだけど

うん。波は干渉しあって縞模様ができるんだ。これを干渉縞と呼ぶ。山と山がぶつかるところは高くなって、谷と谷がぶつかるところは低くなる。その強弱が縞模様を作るんだ


へー

こんな感じで、物質には粒の性質と波の性質があるよ

さて、ここからが本題。さっきはボールで実験したけど、これを『すごく小さい世界』で実験したのが『二重スリット実験』。そしたら、常識では考えられない現象を観察することになったんだよ

すごく小さな世界?

そう。ボールの代わりに使ったのは電子。電子は量子の仲間。量子の仲間にはほかにも光を構成する「光子」がある。光子も二重スリット実験でよく使われてきたよ

ちょっと置いてかれた・・・

そかそか、今のは忘れていいよ。夜空を見上げれば星がある。その星々は粒みたいに小さいけど、実際には太陽よりも大きい星ばかり。それくらいスケールが違うお話ってこと

なおさら分からん。で、常識では考えられない現象って?

電子をボールと同じように発射したのに、縞模様ができたんだ

ボールなら粒だから、二本線の方じゃないの?


粒なのに波の干渉が起こったってこと?

そう。2本のぶつかった跡が現れると思われたけど、そうはならなかった。ただ、こんな指摘もあった。そのときの実験は、電子を同時にたくさん発射して行ったから、電子同士が干渉し合って縞ができたんじゃないかと。だから、その13年後、今度は電子を1個ずつ発射して実験したんだ。でも、結果は同じだった。電子を1個ずつ発射しても干渉縞ができたんだ


(出典:Dr. Tonomura, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

ほんとだ。縞模様になってる・・・

なぜ一粒ずつ発射してるのに、つまり、粒同士の干渉が起こりえない状態なのに、縞模様ができたか、そこはまだよく分かっていない。数学的には、一つの電子がスリットを「片方だけ通った」と「両方通った」と「どちらも通らなかった」が同時に存在すると解釈されてる。また、電子が壁に当たるまでは、どこか一箇所に存在することのではなく、こっちなら10%、あっちなら20%って感じで確率の波として存在してて、壁に当たったとたんに波が消滅して電子の場所が確定するという解釈もある。観測したとたん、世界が決まるんだ

分からん!

まあ無理もないかも。アインシュタインでさえ、確率の波として電子が存在するという提唱を信じられず、「神はサイコロを振らない」と言ったくらい。それに、これは勝手な直感だけど、量子一つ一つが持つ波動性が時間をまたいでる可能性もあると思う。このことは、僕たちが当たり前に持ってる時間の概念を一旦忘れないと理解できないような気がする

ますます分からんわ!で、これが二重スリット実験のすごいところなのね?

いや、実は違うんだ。電子が波の性質を持つことは実は以前から指摘されていたから。驚くのはこのあとだ

・・・

二重スリット実験で1粒ずつ発射しても縞模様ができることが分かると、今度はある科学者がその電子がどちらのスリットを通ったのか、観測機器を置いて調べることにした

右のスリットを通ったのか、左のスリットを通ったのか?ってことね

そう。そしたら、またもや当時の物理学では到底理解できない不思議な現象を捉えることになった

なになに?

観測をはじめたとたん、干渉縞が消えて、二つの筋だけになったんだ


え?さっきまで縞模様だったのに?

そう。検出カメラを置いただけで。それだけで縞模様が消えて、ボールの二本筋になった

へー!驚きがミルフィーユ

たとえが独特

そういうこん言っちょし

粒子がどちらのスリットを通ったか、人間が観測するという行為をしただけで、電子は粒として振る舞うようになった。観測をやめると、また縞模様が現れる

こわ!でも少しわかるかも・・・私も見られてるって分かると姿勢こぴっとするもん

ほら、最初言ったやつ

観測するというのはとりもなおさず装置が電子を検出する作業であり、その行為自体が電子の状態に影響しているのではないか、という指摘もあった

とりもなおさず笑

だから今度は、二重スリット実験をもっと複雑にして、すごく意地悪な仕掛けにしたんだ。つまり、量子がどちらのスリットを通ったか、それを突き止める観測をしたかどうかを、あとから判明させるようにしたの。縞模様を作るか作らないか量子に最終決定させてから、観測してたかどうかをそのあとで打ち明けるという感じ

『観測してたかどうかは今はわかりません。後から分かるので、先に縞作っといてください、作りたいなら』みたいな?

そうそう

そんなことして神様を怒らせない?

今のところは

私なら激おこ

その実験でも縞模様ができたり消えたりしたから、まずは観測機器の影響ではないことが分かった。そして世界を驚愕させたのは、そのあとだった。未来に下される答えに量子はいつも正解してたんだ

ん?どゆこと?

『じつは見てました。あなた、さっき右のスリット通りましたね』とか『どっちのスリットを通ったか、今回は観測してませんでした』と判明するのは、量子が縞模様を形成するかしないか決めないといけないタイミングの数ナノ秒後になるように装置が組まれてる。それなのに、どっちのスリットを通ったか観測してなかったときだけ、ちゃんと縞模様を作ってたんだ。まるで未来を分かってたみたいに。これが一体どういうことか・・・

こわ!

(出典:Stigmatella aurantiaca, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

未来を知っていたとか、未来から過去を選んでいるとか、そういうことではないかもしれない。どうやら量子にとっては、過去、未来の概念はあまり意味を持たないかもしれない。これが、人類が足を踏み入れてしまった量子の奇妙な世界なんだ。いよいよ時空への理解に人間が手をかけた?実際、量子もつれと量子テレポーテーションも、量子が時間や空間を越えて情報を瞬時に行き来させてる現象だからね

完全、置いてかれた!

まあそれは余談だからいい。二重スリット実験のことは分かったかな?

分かったような、分からないような・・・だけど、過去、現在、未来っていう言葉は、たしかに人間が勝手に作ったものにすぎないのかも。愛とか正義って言葉と同じでね

お!

言葉って、いつだって曖昧模糊。でもその言葉の中に正しさを見つけながら私たちは生きてる

ん?
※会話には、二重スリット実験の一種である「遅延選択量子消しゴム実験」の内容も含みます。
Article written by ヒノキブンコ