社外取締役鼎談
経営理念に沿った地域の社会課題解決への取組みこそが、持続的な企業価値向上のための道筋である
昨年、東証から資本コストや株価を意識した経営に関する要請が公表されました。企業価値向上に向けて、当行はどのように取り組んでいくべきとお考えでしょうか。
加野 銀行は業種特有の規制があり、外部環境が厳しい中で、ROEの向上やPBRの改善は難しいところがあると思いますが、当行が具体的な数値目標や改善計画を示し、着実に取り組んでいる点は高く評価できると思っています。もっとも、長期的には数値目標ありきではなく、お客さま満足や地域経済への貢献など、数値に表れない部分において地道に信用を築いていくことこそが、当行の持続的な企業価値向上につながると考えています。また、利益率を高めるためには、これまでも注力してきている法人のコンサルティング領域を伸ばしていくことが重要だと思います。
市川 業務の効率化や、新事業など、新たな利益を生み出す活動に積極的に取り組んでおり、当行の将来性には期待しています。そのような中でも、あくまで経営理念である「地域密着と健全経営」が当行の経営の柱であることは常に意識してほしいと思います。お客さまや職員を大切にし、さらには県民をはじめとするステークホルダーと誠実に向き合うことが健全経営の本質だと考えます。山梨を代表する企業として、今後もこうした姿勢を貫き、地道な取組みを積み重ねていくことで、結果的として長期的な企業価値向上につながると考えています。
多様な意見をオープンに取り入れ、着実に変革に取り組む風土が山梨中央銀行の特長
企業価値向上を目指すに当たって、当行のガバナンスについてはどのようにお考えでしょうか。
増川 社外取締役として経営陣や職員に意見や質問をしたときに、必ずきちんと答えが返ってくる点は素晴らしいと思っています。事前・事後の説明や担当者からの説明も丁寧ですし、我々の質問にも100%回答が返ってきます。また、職員と話す機会も多くいただいていて、オープンなマネジメント・ガバナンスが実践されているという印象です。加えて、経営陣が株主、お客さま、職員の声に対して、素直に耳を傾けています。もちろん、社外役員の意見に対しても真摯に向き合ってもらっている印象を受けています。ぜひ今後もこのスタンスを続けてほしいと思います。社外取締役として、どのようなプロセスで個々の問題の決定がなされているかを知りたいとの要望を出した結果、経営戦略会議(※)にも参加させてもらえるようになりました。
※常勤役員・執行役員間で情報共有等を行う会議。
加野 取締役会では、議案についての説明も丁寧ですし、資料も見やすさ・分かりやすさの点で充実しているだけでなく、年々さらに改善していると思います。資料の内容が分からずに質問するということはなく、質問をした際にも、背景を含めてその場で回答がもらえるので、本質的な議論に時間を割くことができていると思います。
市川 取締役会の資料について、安易に簡略化せず、明確な言葉や文章で課題や方針が示されている点はとてもよいと思います。また、上程された議題について、行内での検討段階でどのような議論がなされたかが社外役員にも分かるよう、常務会(経営会議)での質疑の状況を示す資料も添付されており、とても参考になっています。
新体制のもと、企業風土の変革が加速した
2023年度は、古屋頭取がトップとなって最初の1年間でした。新経営体制をどのように評価されますか。
増川 新体制では、今までの路線を踏襲しながらも、新機軸の前向きな取組みを取り入れており、変革に向けた経営陣の強い意志を感じています。例えば、企業変革の肝である職員の意識改革を促すために、直接メッセージを伝える取組みに非常に力を入れています。私も研修に参加させてもらい、中堅層の職員の皆さんと話しましたが、トップが伝えてきた変革意識が、職員にも浸透してきた印象を受けました。
加野 増川さんの意見に全く同感です。2015年、当時の進藤頭取の時代に社外取締役に就任して以降、当行では着実に改革をしてきたと思っています。昨年度の統合報告書の社外取締役インタビューでお話ししたように、社外取締役を導入した当初から、社外取締役の意見を尊重しようとする姿勢を感じていました。長らくマイナス金利やコロナ禍など、銀行にとっては厳しい事業環境が続いていました。その中でも地道に改革を続けてきた結果、ようやく足元お客さま向けサービス業務の利益がプラスに転じるなど、今までの改革が実を結び始めたと感じています。頭取が変わり、改革のギアがさらに上がったように感じています。
市川 前体制からも、人事制度改革や地区本部体制の導入等、組織改革には積極的に取り組んでいましたが、新体制は、前体制が築いてきた改革の姿勢をさらに強く打ち出し、積極果敢に実行に移していると感じます。改革のベースは人財であり、職員が生き生きと働くことができる職場環境や、職位に関係なく自由に意見を言えるコミュニケーションを確立することによって、より良いサービスにつながるとの考えが根底にあるのだと思います。古屋頭取は頭取メッセ―ジや支店長会議など、さまざまな機会を捉えてこの考えを発信している点が印象的です。
多様な職員の活躍とエンゲージメントの向上が、地銀ビジネスを変革する原動力になる
エンゲージメントサーベイを実施し、その結果説明会に参加されたと伺いました。当行の職員や組織風土について、印象をお聞かせください。
増川 私は2回研修に参加しましたが、真面目で優秀な人が多いと思います。30~40代の職員の方と話しましたが、能力や仕事に対する想いの面で個性があり、多様な素質を感じたのは意外でした。このようなタレントがそれぞれの持ち味を発揮するためには、適材適所の実現が重要だと思います。実力を発揮できる部署に配属して、適切な権限と責任を持ってもらえば大いに活躍できそうな人財が多数在籍している点に安心感を持っています。
市川 研修の参加者に仕事への想いを聞いたところ、苦労はあるものの、仕事は面白いしやりがいがあるとの意見がほとんどでした。また、組織の風通しがよくなっていることを自分も実感すると同時に、お客さまからもそのような意見をもらったことがうれしかったと述べる職員もいました。会話を通じて職員が仕事への意欲や誇りを持っていることを実感できましたし、このような職員の皆さんが今後経営の中枢を担っていくことを考えると、見通しは明るいのではないかと思っています。
加野 職員と話ができる機会を設けてもらえること自体、非常に良かったと感じています。エンゲージメントサーベイ以外に、女性社外役員として女性職員との懇談会もありました。当行では、「Colors」というダイバーシティ推進チームが中心となって、誰もが働きやすい職場の実現に向けて活発に取組みを進めています。当行の現在の女性の管理職比率はまだまだ見劣りしていますが、「Colors」を中心に、ダイバーシティの実現に向けて積極的に取り組んでいる姿を見て、今後に期待感を持っています。
市川 「Colors」の参加者は女性が多かったのですが、今年から男性のメンバーも増えています。参加者からは、仕事と家庭の両立に苦労があり、部下の育成に悩んだりすることもあるものの、しっかり仕事をやりたいという意欲を感じました。このような人たちが、将来管理職や役員として活躍し、多様な人財がより一層輝ける会社になるとよいと思っています。
皆さんのお話を伺っていると、特に中堅層の職員の方のモチベーションが高いことが当行の特長であり、今後の事業変革の原動力にもなると感じました。モチベーションの秘訣はどこにあるとお考えでしょうか。
増川 20年ほど前、私が日本銀行の支店長として甲府にいた際には、当行の職員の雰囲気を一言で言うと、「一糸乱れない」というものでした。会社の方針には従う一方で、自分の意見をあまり言わない職員が多く、役員の方も職員の本音を把握できていなかったようにも思います。しかし、今の経営陣からは、若手・中堅の気持ちを理解しようとする姿勢や、実際に理解していることが伝わってきます。
加野 若手を含めて職員から業務の効率化について意見を求め、実際に効率化につなげて業務改善をする取組みを実行していると聞きました。職員が挙げた意見が実際に改善につながっていることが見えると、職員が意見を言いやすくなるだけでなく、意見が形になることによって達成感を覚えることにつながります。このような一つ一つの積み重ねによって、自分が会社の役に立っており、自分のしていることが前に進んでいく実感を職員が持てるようになっているのではないでしょうか。また、前頭取の時代から、静岡銀行との人財交流や、他社への出向を積極的に進めています。もともと明確に山梨県経済の発展に貢献したいという想いを持って入行する職員に対して、自分を活かすことができる場がさまざま用意されているように感じます。
市川 頭取を含めて、役員が現場に出て、直接コミュニケーションを取ることが多い点も大きいと思います。研修にも頭取や専務が参加して、グループの中に入って意見交換をしています。役員が雲の上の人でなく、身近で意見を聞いてくれる人であると受け止められているように感じます。
パーパス「山梨から豊かな未来をきりひらく」を実践するとともに、これからも自分事として地域の社会課題解決にチャレンジし、発信し続ける会社であってほしい
昨今の事業環境のトレンドなども踏まえて、皆さんの専門的見地から見て、当行が今後取り組むべき課題などがあればご教示ください。
増川 高齢化、AI、地政学リスクなど、不確実性が高い中で、長期的な事業環境を正確には予測できないというのが正直なところです。そのような中、今の当行が取り組んでいる、チャンスがあれば挑み、一方でリスクを把握する姿勢は一貫して続けていくべきだと考えています。今後もさまざまなステークホルダーや外部の専門家の意見を取り入れながら、人と情報に関するアンテナをさらに高く、広く張り続けていってほしいと思っています。加えて、変化に対してもさらに柔軟に取り組んでほしいです。まずチャレンジしてみて、間違っても修正すればよいというように、組織のマインドを切り替える必要があると思います。当行だけでなく、総じて金融業界は全体として減点主義から抜け出せていません。変化の激しい時代では、決定までに時間をかけるとチャンスを失うことやリスクが増大することになりかねないので、アンテナの高さと行動の柔軟さをさらに磨いてほしいと思います。
加野 山梨県の高齢化の問題が最も大きいでしょう。金融サービスのデジタル化に取り組んでいく一方、取り残されがちな高齢のお客さまへの対応も必要ですし、金融犯罪が増えている点も見逃せません。詐欺の手口も巧妙化しており、現在でもかなりの労力を金融犯罪の対応に割いているという報告を当行の取締役会でも聞いています。今後、おそらく金融犯罪の件数が減ることはない中で、コストがかかり、リスクがある問題に対してどのように対応するべきかを考えることは、困難ですが重要な課題であると思っています。あらゆるリスクに網羅的に対応することが難しくなる中、重要度が高い問題を見極めて、優先的に組織のリソースを割り当てられるよう、リスクマネジメントをさらに磨いていく必要があります。
市川 私自身、山梨県に住む中で高齢化や人口減少の問題を体感しています。住民にとって、当行の存在は安心感にもつながる特別なものであり、過疎化が進む地域にとっては、わが町に支店があるか否かは大きな問題でもあります。県民が当行に寄せる信頼や期待はとても大きいということを職員の皆さんに再認識していただきたいです。行政と連携した取組みも進められていますが、県内に支店網を持つ当行だからこそできる地域密着・地域貢献を推進し続けてほしいと思います。
最後に、パーパスの実現に向けて、当行や経営陣・職員に対する期待をお聞かせください。
増川 当行の持続的な存続のためには、地域との共存が今まで以上に求められるようになるでしょう。そのためには、高齢化といったマクロの問題を、現実のミクロの問題としてどのように取り組むかを考えられる銀行でなければなりません。例えば、企業の世代交代のサポート、新しいベンチャーの育成、高齢のお客さまが取り残されることの防止といった問題に対応する必要があります。冒頭でも話しましたが、目の前で起こる現実の課題に対して、評論家としてではなく、当事者としてきめ細やかに対応できる組織であってほしいと思います。
加野 山梨県経済の発展が当行の事業継続と成長の根幹である中、パーパス「山梨から豊かな未来をきりひらく」の通り、不変の企業理念や価値観のもと、新しいことにチャレンジして変わっていく姿勢を続けてほしいです。地域の企業や金融機関と連携して、従来のビジネスにとらわれずに新しいことにチャレンジし続けてほしいと思います。
市川 当行はカーボンニュートラルでも挑戦的な目標を掲げ、先日人権方針などを制定した際にも、差別やハラスメントを容認しない企業姿勢を打ち出しました。個人的に、このような経営の姿勢には感動しましたし、県内にそのような企業が出たことをうれしく思っています。これだけのことに取り組んでいることを県民や県内企業、行政機関だけでなく、県外に向けてもっとPRしてほしいと思います。今後、金融のデジタル化は進んでいくと思いますが、企業経営のベースはあくまで人であり続けます。お客さまや地域社会と向き合い、何ができるのかを追求し、実践していくことこそが、これからの銀行経営の柱になると考えています。職員一人ひとりが感性や創造力を最大限発揮し、経営に活かしてほしいと思いますし、このような考え方こそが「山梨から豊かな未来をきりひらく」というパーパスの根底にあると思っています。
キャリアアッププログラムでの社外取締役と職員との意見交換の様子
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