「あ」とは?形のわけとその成り立ち
「あ」の成り立ち。それは、およそ1,000年前に起こった文字にまつわる簡素化の歴史です。
「あ」とは?
「あ」とは「あいうえお」の5母音のひとつであると同時に、日本語の五十音(ごじゅうおん)の第1音。
それをひらがなで表したものです。
ひらがなはもともと、漢字の字画を省略して書いた形が、やがて本来の漢字の意味から離れて日本語を記す一音として独立して使われるようになったものです。
「あ」はなぜこの形?~「あ」の成り立ち
「あ」は、漢字「安」を簡略化したものです。「安」が行書体や草書体で書き崩して書かれるうちに、「あ」が生まれました。
「安」は、一説には女性(「女」)が家(うかんむり、宀)の中にいる様子を表すと考えられており、安心、安泰など、やすらかで落ち着ける雰囲気を指す言葉に使われます。
そもそも、「ひらがな」とは?
ひらがなは、中国から伝来した漢字から日本で派生したものです。
西暦900年頃の平安時代に、そのまえの奈良時代を中心に使われていた万葉仮名(まんようがな)に代わるものとして、ひらがなが広がったと言われています。
古来、漢字で表されていた文章は画数が多く面倒だったため、日本人は省略して書くようになります。それを行書と呼びます。
また、その漢字の意味にかかわらず、日本語の1音に漢字1字をあてて音節を表記するようになります(万葉仮名、奈良時代)。やがて、より簡単に速くかけるようにと、行書はさらに省略され(草書体)、それがひらがなとして定着しました。
漢字は本来の日本語の音節に併せてバージョンアップを重ね、ひらがなという副産物を生んだというわけです。 英語で言えば、筆記体からひらがなが生まれたようなものでしょうか。英語のアール(r)の筆記体を、大胆にも新しい一文字に変えて、表現の幅を広げたイメージです。
簡素化は普遍的変化
万葉仮名は画数が多く、その省略形としてひらがなが生まれたわけですが、これは最近の日本語でも省略形が次々生まれていることと無関係ではないでしょう。たとえば明治期には、それまで略字や誤字として使われていた漢字が正式な字として昇格しました(國→国、學→学、櫻→桜など)。また、ヤバい、エモい、それな、など「感情の省略形」とも言うべき言葉も若者によって生み出されています。
ひらがなが長い時の要望に応えた一手であるとしたら、受け入れられるのも早かったことでしょう。平安時代にも、官人が地方へ赴任する、いわゆる転勤があったため、ひらがなが日本各地に普及したのは早かったと言われています。今、わたしたちが使う日本語は、そんな「簡素化」の歴史の上に横たわっています。
written by ヒノキブンコ