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⽐喩とは?「分かりやすく伝える」以外の効能。⼼の形を⾔葉にする

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原木の切り口に見られる渋

女性

これが渋(しぶ)?

男性

そうだよ、これが渋だよ

女性

そもそも渋ってなんですか?

男性

しょうゆのシミみたいなもんだよ。中の方までいってると、製材したとき黒っぽい筋が出ることがあるんだよ

比喩とは?

比喩とは、自分が伝えたいことを身近なことに例えて平易に表現すること。

「鬼みたいなこと言うね」などは分かりやすい比喩ですが、「心の傷」「曇った表情をする」なども比喩の一種です。

比喩にどんな種類があるか見ていきましょう。

比喩の種類

代表的な比喩をご紹介します。

直喩

「まるで○○のよう」と、別のものに例えていることがはっきり分かる比喩を直喩(ちょくゆ)と呼びます。「○○みたい」「○○かと思うほど」「〇〇のごとく」も直喩です。


・りんごのように赤いほっぺ
・赤ちゃんのような肌
・ガラスのような心

名前が思い出せない時の会話にも直喩はよく登場します。

「カップみたいな形で海にぷかぷか浮いてるやつ」
「え?」
「足が紐みたいに長くて」
「クラゲ?」
「それそれ」

慣用句・ことわざにも、直喩的なルーツをもつものが多くあります。

・大船に乗ったつもりで
・雲をつかむような話

隠喩

「まるで○○のよう」「○○みたい」と言わずに、「AはBだ」「AのBを」「AするBは」など言い切る比喩を隠喩(いんゆ)と言います。

・あの人は悪魔だ
・人生はマラソンだ
・彼は鋼(はがね)の精神を持ってる
・彼女は僕の太陽だ


慣用句・ことわざにも隠喩的なルーツのものが多くあります。

・鬼の目にも涙
・目を丸くする
・知らぬが仏
・足が棒になる

甲州弁で「飛んでく(急いで行く、走っていく)」という言い方がありますが、これも隠喩的な表現と言えます。

換喩

換喩は会話の中で省略、会話の効率化のために使われます。

・最近、太宰をよく読む
(太宰治の本を指している)
・ショパンを聴くのが好き
(ショパンの曲を指している)
・お稲荷さんに行く
(神社を指している)

提喩

提喩は対象をそのグループ名やグループに属す1個の名称で言い換える比喩です。換喩の一種ですが、文面通り受けとっても意味が通じることがポイントです。

・花見をする
(桜を指している。大→小)
・冷蔵庫にまだ卵ある?
(鶏卵を指している。イクラを指していない。大→小)
・お茶、飲みにいこう
(「お茶」が緑茶だけでなく紅茶やコーヒーなど飲み物全体も指している。小→大)

比喩の役目、可能性

このように、私たちの生活は比喩であふれています。どれだけ短くシンプルな言葉で相手に伝えるか、それは人類の永遠のテーマであるようです。

換喩や提喩のように会話の効率性や省略を図る『実用的比喩』もあれば、直喩や隠喩のように『魅せる比喩』もありそう。とくに後者は、その人ならではの個性が発揮されます。

歌の歌詞を見ると隠喩だらけ、小説を読むと直喩だらけ。それは、歌はポエムの場で、小説はリアリティの場だからでしょうか。

抽象的なイメージを伝えるか、リアルなイメージを伝えるかで、使う比喩の種類が変わるとすれば、私たちが日常で使う比喩は隠喩より直喩の方が相性が良いことになります。

たしかに、お笑いのコントや漫才でも「〇〇か」「〇〇みたいだな」とツッコむことは多いのに、隠喩で言い切るツッコミは少ない印象を受けます。隠喩のツッコミもありますが、その場合なんらかのポーズを伴って決め台詞のように使われるのが多いのは、リアルな世界から離れてポエムの世界へ突入しますよ、の宣言かも。そういえば、歌舞伎も隠喩の世界!?

単に相手にわかりやすく伝えることが比喩の役目なのでしょうか?

いい比喩は、相手の心に滑稽さ、面白み、エモさを生むものです。人は相手の心の形を知りたがっていますが、心の形を言葉にすることは容易でないことも知っています。比喩は短い言葉の羅列ですが、それが相手に届いたとたん、相手の経験や記憶を総動員して補完する共同作業に入ります。相手の心に「体験」が立ち上がるのです。そうして相手の心を揺らすことが比喩の役目の一つなのかもしれませんね。

冒頭の比喩も、筆者が8年ほど前に製材所の方と原木市場を訪れたときに交わした会話ですが、『しょうゆのシミみたいなもん』で妙に納得したのは比喩の力でしょう。

比喩には『距離感』が大事

比喩の名手と言われる小説家や文筆家は、比喩には距離感が大事だと言います。

距離感とは、例える対象との距離のこと。それが近すぎると平凡になるというのです。

砂糖のように甘い
仏のように優しい
石のようにかたい

これだと距離が近すぎるということになります。分かりやすさのために持ち出されたはずの比喩が、わかりやす過ぎるとつまらない、というのはなんだか皮肉なことです。しかし、比喩の役目は分かりやすく伝えることだけではないので、仕方ありません。

ではどうすれば比喩が上手になるのでしょうか?それは、比喩が上手くない筆者にはどうにも分からないことですが、小説や映画、詩歌などを通して先人に学んだり、人との会話を楽しむことがいいのかもしれません。





以上、「比喩とは?心の形を言葉にする」でした。

巧みな比喩はその場の雰囲気を変え、人の心を変えます。仕事にプライベートにと素敵な比喩を取り入れていきたいものですね!簡単ではなさそうですが・・・

written by ヒノキブンコ

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