「それな」の意味は?どう使う?〜若者が編み出した、おもてなし全開の相づち
以前、若者言葉「エモい」を取り上げました(記事はこちら⇒「エモい」の意味は?どう使う?〜心の素敵な揺れを3文字で射止めた言葉)。今回は、同じく若者言葉の「それな」をご紹介します。
- 目次
- 1. 「それな」「それなー」とは
- 2. 「それな」と「それなー」のニュアンスの違い
- 3. 「それな」「それなー」の用法・用例
- 4. 甲州弁と「それな」の共通点
- 5. かわいいと定着しやすい?
- 6. 「そう」より「それ」~若者こそ言葉に対して厳格なセンサーを持っている⁉
- 7. すでにあるのに、なぜ新しく生まれるか?
「それな」「それなー」とは
「それな」「それなー」は、SNSや会話で相手の発言や意見に対して、「まさに!」と相づちを打つときに使われる若者言葉です。
「そうだよね!」「それそれ!」「その通り!」に近いニュアンスですが、単なる相づちよりも身を乗り出している感じ、短いフレーズで手っ取り早く相手へのホスピタリティを高める特徴があります。いわば、若者が編み出した「おもてなしの相づち」です。
「それな」は10代の若者言葉とされ、実際、中学生から20代まで使われています。
「それな」と「それなー」のニュアンスの違い
「それな」と言い切った方が強く同調しているさまを表現できます。
「それな」「それなー」の用法・用例
「それな」は、間髪入れずに少し突き放すように言うのがコツです。
「寒いけど晴れてる。富士五湖でキャンプしたら気持ちよさそう。」「それな」
「知り合いだと思って声かけたら知らない人だった。恥ず。」「それな」
「もう試験勉強始めた方がいいよ。」「それなー」
少し投げやりな気持ちを伝える用法もあります。
「コーヒー飲む?」「それなー」は間違い。「それな」は「はい(YES)」の意味ではないからです。
「あのコーヒー店、めちゃおいしい!」「それな」なら正解。
甲州弁と「それな」の共通点
※この項は甲州弁を使われる方向け
「それな」は、甲州弁なら「ほうずら!」とか「ほうずらな!」に近いニュアンスがあります。
具体的には、相手の気分の高揚をそのまま引き受けて肩入れする感じが似ています。単に相づちを打つだけなら、そうだね、たしかにね、と言えばいいわけですが、そうは言いません。「いいさよー」、「やっちょし」など、相手への慮(おもんぱか)りに溢れておきながら、ぶっきらぼうな感じがする甲州弁。そのスタンスは「それな」のぶっきらぼうに通じるものがあるのです。
「ふいに話しかけられたって、私はあなたの気持ちの標高まで一気に上がるよ」
そんな気概が「それな」の本質であるなら、それは甲州弁が見ている景色と同じであるような想いがします。
かわいいと定着しやすい?
「それなー」は英語なら「Exactly」「That's it」。
外国にも同様に若者の気持ちを短い言葉で表現するスラングがありますが、日本の若者言葉にはその発音の響きが「かわいいかどうか」という別の基準が存在しているように感じます。
かっこいいというよりは可愛い。「エモい」にしても「コクる」にしても、かわいい余韻をそっと残していきます。
「チョベリグ」「ナウい」は可愛くない。でも、「コクる」「エモい」は響きがかわいい。そんなささいな違いが、若者言葉の普遍性を左右しているのかもしれせん。なんといってもKawaiiは、海外で対訳が存在しない日本生まれの形容詞ですから!
「そう」より「それ」〜若者こそ言葉に対して厳格なセンサーを持っている⁉
同意を示す言葉としては「そう」があります。
「そう」「そうそう」 よりも、「それ」「それそれ」の方が具体的な対象を指しているためか、相手への同意の程度が高まることをわたしたちは感覚的に知っています。
いつでも使われる「そう」を若者はよしとせず「それ」に乗り換えたのだとしたら、若者こそ言葉の微妙なニュアンスに対し厳格なセンサーを持っているのではないでしょうか。
すでにあるのに、なぜ新しく生まれるか?
「それな」は意味だけ見れば「その通り」とか「それそれ」と同じです。 同じ意味の言葉がすでにあるのになぜ「それな」は誕生したのでしょうか?
エモいもそうでした。「美しい」「感動的」「ノスタルジック」「懐かしい」など既成の言葉はあるのに、なぜ若者はわざわざ「エモい」と言い始めたのでしょうか? それらの言葉の誕生を一時の流行りとみるか恒久的変化とみるかは時の試練に委ねるとして、それでも若者が言葉に対して妥協なき基準と斬新な発想を持って向き合っている姿が見えてきます。
変わらないこともありますが、同じでいることはできません。
車も電化製品も、社会通念も文学も、生物自体も、同じでいることはできません。モデルチェンジはいつでも機能のコンパクト化にともなう「長さ」の変更でした。
その担い手は、車ならエンジニア、社会通念なら選挙、生物なら突然変異やウイルスによる水平伝播でした。
変わらなければいけない言葉。だとしたらその担い手は若者だったのでしょうか?
源氏物語で紫式部が使った「かな」は当時かなり斬新でしたが、かな文字のおかげでその日の出来事を簡単に書きとめることができるようになり日記が世間に広がったと言われてます。また、枕草子で清少納言は当時の若者の言葉の乱れ(今でいう「ら抜き言葉」のような語法)に触れていて、当時から若者が言葉のルールを破ってきた様がうかがえます。
若者言葉はどれもこれも大胆で斬新。それでいて、単語がもつ意味や響きが軽妙に人の感情に絡み合うことが多く、まるで老練な作家が見いだした文章に触れているような想いがします。
以上、「それな」の解説でした。 若者言葉には流行るだけの理由があります。その用法を大人が修得するのは容易ではありませんが、大人から歩み寄れば家庭、職場などでの若者との会話もスムーズになるかもしれませんね!