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陸上動物の分布を隔てる『ブラキストン線』について

海は陸を物理的に隔て、陸上動物の分布を隔てますが、海を越えても同じ生物種が生息することは珍しくありません。たとえば、本州と四国。どちらも分布する生物種はそれほど変わりません。その境目は一見大きく見えて、生物にとっては乗り越えられる壁なのです。

一方で、海が生物分布の大きな境目になっていることもあります。本州と北海道の境目、いわゆるブラキストン線です。

ブラキストン線とは?

ブラキストン線とは、北海道と青森県の間、津軽海峡に引かれた陸上動物の分布境界線です。イギリスの動物学者トーマス・ブラキストンが提唱し、その後ブラキストン線と呼ばれるようになりました。

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ブラキストン線で変わる動物相

ブラキストン線を境に動物相は大きく変わります。

たとえば、ヒグマ、エゾモモンガ、エゾリス、クロテン、ヤマゲラ、シマフクロウなどは北海道に生息しますが、本州にはいません。

======ブラキストン線======

一方、ツキノワグマ、ニホンザル、ニホンカモシカ、ホンドリス、ムササビ、ニホンリス、ニホンモモンガ、ライチョウ、ヤマドリ、アオゲラなどは本州には生息しますが、北海道にはいません。

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なぜブラキストン線をまたぐと動物相が変わるの?

なぜブラキストン線をまたぐと動物相が変わるか?そこには大陸形成の歴史が関係しています。

氷河期に北海道は樺太や千島列島、ユーラシア大陸とつながり、大陸の動物たちは自由に行き来できました。それが、およそ1万年前から現在まで北海道は海に囲まれた独立した島となり、固有の動物相が成り立ったと考えられています。さらに、津軽海峡が水深が深く潮が速いため、動物が簡単には本州へ渡って来れなかったことも、北海道独自の動物相が形成された理由と考えられています。

このような分布境界線は世界でいくつも知られていますが、その成り立ちはどれも、悠久の時が築いたストーリーが隠されています。

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津軽海峡

世界にはもっと大きな分布境界線もある

日本の大きな分布境界線ブラキストン線ですが、世界にはもっと生物の大きな分類に関わる線も知られています。オーストラリアの生物相を隔てる分布境界線です。

オーストラリアには『有袋類』や『単孔類』(カモノハシなど卵を生んで哺乳するほ乳類)、固有淡水魚など独自の生物が分布します。その分布境界線を巡っては以前から研究され、現在、ウォレス線、ウェーバー線、ハイデッカー線などの分布境界線が定義されています。ウォレス線はイギリスの博物学者アルフレッド・ウォレスによって発見した分布境界線です。

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いずれの境界線もオーストラリアの北、インドネシアの島々の間に求められ、その辺りが大陸の移動(超大陸パンゲアの分裂など)により、生物進化の運命が大きく変わった境目と考えられています。

有袋類といえばカンガルーやコアラ、ウォンバットなど、胎児を子宮で育てずに未熟な状態で生み、腹部に備えた袋の中で育てる原始的なほ乳類。胎盤をもつ私たち有胎盤ほ乳類が現れる前は、有袋類が世界中で繁栄していました。

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有袋類のタスマニアデビル

現在、有袋類が生息するのはオーストラリアと南アメリカ大陸、一部の北アメリカ大陸(オポッサム)に限られます。繁栄しはじめた有胎盤ほ乳類(主に真獣類)に追いやられる形で、各大陸で有袋類が次第に絶滅していったからです。

その交代劇が始まったのはまだ大陸がつながっていた頃。しかし、オーストラリアは早い段階で孤立した大陸になっていたため、有胎盤類が入り込めず、さらにその後もどの大陸とも地続きにならなかったため、今に至るまで有袋類の楽園が保たれました。

実は、南アメリカもオーストラリアのように長らく孤立していたため、有袋類が繁栄していました。しかし約300万年前に南アメリカが北アメリカとつながったことで、北アメリカから真獣類が侵入し、南アメリカの有袋類のほとんどが絶滅したと言います。今生き残っているのは、オポッサムなどわずかな種のみ。


以上、「陸上動物の分布を隔てるブラキストン線」についてでした。

written by ヒノキブンコ

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