マイクロプラスチック・海洋プラスチック〜数百年も分解されないゴミ。その原因と対策
この記事の目次
- 海洋プラスチックとは?その原因は?
- 海洋プラスチックの生態系への影響
- マイクロプラスチックとは?その原因は?
- 日本のプラスチック消費量、リサイクル率
- 海洋プラスチック・マイクロプラスチック問題の対策〜EUの取組み~
- 日本でも始まったレジ袋有料化
- 安易なプラスチック使用制限は危険
この前、おいしそうなクラゲがいたから食べたらレジ袋だった。死にそうになったよ。
え、かわいそう。
それに、砂つぶよりも小さいプラスチック粒が最近たくさんふわふわしてる。体の中に溜まってるみたいだ。
大丈夫なの?
わからない、こんなの初めてだから・・・
海洋プラスチックとは?その原因は?
原油を精製して作られるプラスチックは安くて丈夫で自由に形が作りやすいゆえ、わたしたちの生活に欠かせない素材となりました。普段何気なく使っているペットボトルや使い捨て容器、レジ袋はその代表例ですが、手軽に手に入るからこそ簡単に捨てられてしまいがちです。海洋プラスチックとは、雨や風、台風などで川に流れ、最終的には海にたどり着くプラスチックのことです。
「自然環境でプラスチックはほとんど分解されない」これは30年以上前から分かっていたことでしたが、さらに最近の研究により、海洋に流れ着いたペットボトルは400年も分解されないことが分かってきました。釣り糸ならなんと500年以上!
2010年のデータでは年間少なくとも800万トンのプラスチックゴミが海に流出し*、このうち毎年2〜6万トンが日本から発生しています**。年々増え続ける海洋プラスチックですが、このペースだと2050年には海洋プラスチックの重さが海にいる魚の重さを追い越すと試算されています***。
*環境省
** "Plastic waste inputs from land into the ocean." Science (2015)
***The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics (世界経済フォーラム 2016)
海洋プラスチックの生態系への影響
増え続ける海洋プラスチックですが、実際に海の生き物を傷つけたり死なせるケースが報告されています。漁網に絡まって溺れた海鳥やウミガメ、胃から大量のプラスチック袋が出てきたクジラなど、その実際の衝撃的な写真を目にすることも増えてきました。スコットランドの海岸には、100キロものプラスチックゴミが胃に溜まったマッコウクジラが打ち上げられました。プラスチックゴミが直接の死因につながったかは不明なものの、死因と無関係ではないと専門家たちは考えています。
静かな死へと誘う海洋プラスチックは海洋生物の新しい天敵と言えるかもしれません。それは恐竜時代も含めても生物が初めて出くわす敵で、進化という対抗策で立ち向かう時間もなく世界中に広がってしまったようです。
マイクロプラスチックとは?その原因は?
これまでは目に見える大きなプラスチックゴミだけが注目されてきましたが、最近、大きさが5mm以下(あるいは1mm以下など)の微細なプラスチック片も問題視されるようになりました。これがマイクロプラスチックです。
マイクロプラスチックには2種類あります。1つ目はもともと小さいサイズで製造され環境に放出されたもの(歯磨き粉や工業用研磨材、化粧品に含まれているマイクロビーズ、スクラブなど)、2つ目はプラスチック製品が太陽の光や水の力などの物理的刺激で劣化・破砕して細かくなったものです。
マイクロプラスチックが初めて問題視されたのは、2004年に科学雑誌サイエンスに掲載された「海に消えた?プラスチックはいったいどこへ?」*という論文です。その後、北極など人が住まない地域の降雪にも含まれることが分かります。海域によっては海氷1リットルあたり1万2,000個以上のマイクロプラスチック粒子が含まれていたり、水深6,000メートルを超える深海で発見された新種のエビの体内にマイクロプラスチックが含まれていた報告もあります。
*Thompson, Richard C., et al. "Lost at sea: where is all the plastic?." Science (2004)
マイクロプラスチックは大気や海流にのってすでに地球の隅々まで広がっているようです。
現段階では、環境中のマイクロプラスチックの濃度は低く、環境や人などに何らかの影響を与える証拠はない(Science Advice for Policy by European Academies、2019年1月)、マイクロプラスチックが人体に有害かどうかはまだデータがなく判断できない(欧州食品安全機関)、と報告されています。しかし、将来どのような影響が地球の生物や地球の物質循環にもたらされるか予想できていない点が、マイクロプラスチックが恐れられる点でもあります。すでに日本人を含めて人体からマイクロプラスチックは高率に検出されていますが、微細なプラスチック繊維がリンパ系や血管、肝臓などに入り込んでいるかどうかはまだ分かっていません。
かつて、農薬により水生昆虫や猛禽類が激減したことや温室効果ガスで地球の気象が変わったことなど、人間活動が思わぬ形と規模でのちに自然環境を変えてしまうことをわたしたちはもう知っています。
日本のプラスチック消費量、リサイクル率
ウミガメさんが大変だよ。なんでこんなふうになっちゃったの?
家でちゃんと分別もしてるし、日本はリサイクル率も高いから、きっと外国が原因なんだよ。
ほんと?
日本のプラスチック生産量は世界第3位、さらに1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量は世界第2位です。
2013年のデータですが、日本のプラスチックリサイクル率は82パーセントです。これは世界的にダントツに高い数字です。しかし実はこのうちの57%は、熱回収といってゴミを燃やして熱を利用しており、材料のリサイクルではありません。となると、純粋なリサイクル率は残りの25%となりますが、その内訳をみるとその7割は東南アジアなど海外に使用済みプラスチックを輸出し、その国でのリサイクルに任せている状態です。つまり、日本国内でプラスチックをリサイクルしている割合は1割に満たないようです(ただし、現在は中国、東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化し、日本の輸出量は減少しています)。
プラスチック主要消費国としてリサイクルに向き合う立場にあるものの、使用量に対して国内のリサイクルはあまり進んでいないのが日本の現状です。
パ、パパ・・・
海洋プラスチック・マイクロプラスチック問題の対策〜EUの取り組み~
EUは世界で最もプラスチック容器の規制が進んでおり、2030年までに使い捨てプラスチックの製造と使用を原則廃止する予定です。その一環として2021年までに多くの使い捨てプラスチック製品を使用禁止にする法案がすでに採択され、来年にはEU加盟国のスーパーや飲食店などで発泡スチロールの食品容器やプラスチックの皿、スプーンなどの使い捨てプラスチック容器が使えなくなる予定です。
リサイクルできないプラスチックの利用をそもそもやめてしまおうというアイディアは、今後の海洋プラスチック問題の布石となるでしょう。
日本でも始まったレジ袋有料化
この表の通り、世界では使い捨てプラスチックの削減の動きが始まっています。日本でも2020年7月からレジ袋有料化が始まりました。これにより、綿や麻など繰り返し使える素材のマイバッグを携帯する人が増えています。
安易なプラスチック使用制限は危険
海洋プラスチック問題を知ると、プラスチックの使用自体をやめるべきと思うかもしれませんが、それは危険です。医療、食品、物流、ものづくりなど様々なシーンでいまやプラスチックは無くてはならない素材です。新鮮なお肉を衛生的に家に運べるのも、燃費の良い車に乗れるのも、手軽にお薬を家に保管できるのも、プラスチックのおかげです。プラスチックを選択するからこそ、減らせるコストや環境負荷があります。
海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題の正体は、自然環境中にゴミとして放出されてしまう点です。捨てられるゴミをどう抑えていくか、さらに温暖化防止のためにいかにリサイクル率を上げていくかが解決の焦点です。
大切な海を守るため、そして後世に海洋プラスチック問題を押しつけないために、わたしたちの意識と行動がいま問われています。
Article written by ヒノキブンコ