富士山の降灰とは?注意するエリア、事前の備えは?
「富士山が噴火したら、どこまで灰が降る?」
「事前にできる降灰対策は?」
2024年9月、国(気象庁)は富士山が大規模噴火した場合の降灰をより広範囲・長時間にわたり予測する「広域降灰予報」を導入する検討を始めました。万一のときに、的確な防災行動につなげるためです。
広域降灰予報の公開は来年以降となる予定ですが、まずは今の資料を基に、想定される降灰範囲や予想される被害、事前にできる対策をご紹介します。
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『富士山は噴火するの?』富士山噴火の専門家に聞きました
降灰のケース
富士山は山梨と静岡の間にあるので、火山灰も両県に多く降ると思われがちですが、実はそうとも限りません。
むしろ都市機能を担う神奈川、東京の方が降灰被害が深刻になるケースが想定されています。
この図は下表ケース1の場合のシミュレーション結果です。富士山噴火時の降灰は上空の風向きに大きく依存します。上空には西風が吹いている条件のため、火山灰が大きく東方向へ広がるのです。
もちろん、風の条件で降灰の状況は変わるので、この図が実際の降灰予測ではないことに留意する必要があります。噴火規模は同じにして、3パターンの風向き条件でシミュレーションした他の2つのケースも見ていきましょう。
これらの結果から、上空の風向きによって降灰範囲は大きく変わることが分かります。東風が強ければ、火山灰は岐阜県や愛知県まで広がります。
特筆すべきことは、15日間の火山活動で30cm以上の降灰が山梨、静岡、神奈川、東京で起こりうるということです。
宝永大噴火の時の実際の降灰範囲
前回の富士山の噴火は1707年に起きた宝永大噴火でしたが、その降灰範囲はどうだったのでしょうか?それは地質調査から分かっています。
下図が実際の降灰範囲と降灰量です。上記のケース1とほぼ一致しています。
宝永大噴火では噴火が16日間続き、降灰もその程度続いたと考えられています。
降灰によってどのような影響、被害が生じるか?
降灰の影響は、交通、電力、水道、下水などに及び、首都圏でも日常生活や社会活動に大きな支障が生じる可能性があります。
中央防災会議防災対策実行会議(内閣府)の資料によると、以下の影響が想定されています。
出典:大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策~富士山噴火をモデルケースに(内閣府)
- 鉄道:微量の降灰でも地上路線の運行が 停止。大部分が地下の路線でも、地上路線の運行停止による需要増、車両・作業員の不足等により運行停止や輸送力低下。停電エリアでは地上、地下路線ともに運行が停止。
- 道路:視界低下による安全通行困難、道路上の火山灰や交通量増等による速度低下や渋滞。乾燥時10cm以上、降雨時3cm以上の降灰で二輪駆動車が通行 不能。
- 物資:一時滞留者や人口の多い地域では、少量の降灰でも買い占め等により、店舗の食料、飲料水等の売り切れ。道路の交通支障による物資の配送困難、店舗等の営業困難により、生活物資の入手困難。
- 人の移動:鉄道 の運行停止と道路の渋滞による一時滞留者の発生、帰宅・出勤等の移動困難。道路交通支障により、移動手段が徒歩に制限される。
- 電力:降雨 時0.3cm以上で碍子の絶縁低下による停電。数cm以上で火力発電所の吸気フィルタの交換頻度の増加等による発電量の低下。電力供給量の低下が著しく、必要な供給力が確保しきれない場合停電 に至る。
- 通信:利用 者増による輻輳。降雨時に、基地局等の通信アンテナへ火山灰が付着すると通信阻害。停電エリアで非常用発電設備の燃料切れが生じると通信障害。
- 上水道:原水の水質が悪化し、浄水施設の処理能力を 超えることで、水道水が飲用不適また は断水。停電エリアでは浄水場及び配水施設等が運転停止し、断水。
- 下水道:降雨時、下水管路(雨水)の閉塞により、閉塞上流から雨水があふれる。停電エリアで非常用発電設備の燃料切れが生じると下水道の使用制限。
- 建物:降雨時30cm以上の堆積厚で木造家屋が火山灰の重みで倒壊可能性。
降灰の厚さや降雨によって被害の内容が変わります。
たとえば、30cm以上の降灰で家の倒壊が起こりうることを想定して避難計画を立てることが重要です。10cmの降灰で1m2あたり140kgの重さが加わり、古い木造家屋に被害が出始めるとされます。50cm以上の降灰で半数以上の木造家屋が倒壊するという試算もあります。
火口風下に位置するエリアは噴火後半日も経たずに屋根の降灰厚が30cm以上になりえるので、噴火後の避難では間に合わない場合もあります。とくに高齢者など体の不自由な方がいる家族は、噴火警戒レベル4の段階で早めに避難することが必要です。
降灰2cmでも車がスリップし、道路の交通機能が麻痺するというデータもあります。
このように噴火の降灰により、インフラや生活空間への被害が相互的に波及し、社会生活環境が大きな影響を受けます。
降灰対策・事前の備えは?
積もった灰をどうするか?本来はそのまま地層になりますが、都市部・市街地では除去しなければいけません。その除去方法や廃棄先は国や自治体が検討しているところですが、まずは個人が身の安全を守るためにできることをご紹介します。
普段から、防災グッズや食料の用意など、地震や風水害の防災対策の一貫として備えておきます。それに加えて、火山灰が降る地域では、マスクやゴーグルを用意しておくと良いです。マスクがその場になかったら、ハンカチを口に当てることも有効です(「富士山は噴火するの?〜富士山噴火の専門家に聞きました」より)。
降灰が及ぶ地域の住民がとるべき行動は「降灰により家屋倒壊の恐れがあるかどうか」で変わります。
中央防災会議 防災対策実行会議(内閣府)によると、以下になります。
- 噴火や風向・風速の状況に応じて、段階的な対応をとる必要がある。
(降灰により家屋倒壊の可能性がある範囲)
- 火山灰の重みによる木造家屋の倒壊が想定される降灰厚に達する前や、土砂災害緊急情報をもとに降灰後の土石流発生前に、避難を完了。
(その他の降灰地域)出典:大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策~富士山噴火をモデルケースに(内閣府)『概要版』
- 降灰により、生活支障が広範囲・長期に及び、社会的混乱が発生。
- 噴火前の地震等、火山活動活発時に、地域を離れることが可能な人は、降灰が想定される範囲外への避難。
- 噴火期間中、降灰範囲に残っている人は備蓄を活用して自宅・職場等に留まり、必要に応じて、利用可能な交通機関を使って降灰範囲外へ避難。
地域により、原則自宅待機となるか、避難となるかが変わる点がポイント。いずれの場合も、食料、生活必需品の備蓄が重要です。
以上、「富士山の降灰とは?注意するエリア、事前の備えは?」でした。
現代社会は絶妙なバランスの上に成り立っています。それを技術と呼ぶのかもしれませんが、数百年に一度起こるかどうかの噴火は想定されていません。富士山噴火による降灰は短時間で日常を激変させてしまうリスクがあります。それを知り、備えることが防災の基本です。
written by ヒノキブンコ