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【専⾨家インタビュー】児童虐待とは?〜児童虐待の背景や現場での取り組みをお聞きしました

年々増え続ける児童虐待。虐待を受けた⼦どもへのケアと親への⽀援が急務であり、それに対応できる専⾨性のある⼈材の育成も大きな課題です。今回は、⼦ども家庭の養育問題への包括的な支援を展開する「地域総合⼦ども家庭⽀援センター・テラ」(⼭梨県甲府市)さんに伺い、インタビューしました。

同センターは児童福祉法に基づく「児童家庭⽀援センター」を中核とする⺠間拠点で、⻑年⼦ども家庭福祉に取り組んできた社会福祉法⼈「⼭梨⽴正光⽣園」が設置しました。

加賀美尤祥理事⻑と社会福祉⼠で⾥親⽀援コーディネーターの⾼橋健⼀郎さんに、虐待が増える背景や現場での取り組みをお聞きしました。

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左から、子どもの心のクリニック・テラ (クリニック棟)、
地域総合子ども家庭支援センター・テラ(センター棟)、
子ども家庭ソーシャルワーク専門職養成研修・研究所(研修棟)

昭和15(1940)年、甲府市に⽣まれる。社会福祉法⼈ ⼭梨⽴正光⽣園 理事⻑。実践に携わりながら、⽇本社会事業⼤学 同専⾨職⼤学院 教授、⼭梨県⽴⼤学 教授 を歴任。全国児童養護施設協議会では 第8代、第10代会⻑を務め、厚⽣労働省「児童虐待防⽌専⾨委員会」委員、「⼦ども家庭福祉のあり⽅に関する専⾨委員会」委員、「新たな社会的養育の在り⽅に関する検討会」委員として、平成28(2016)年児童福祉法改正と『新しい社会的養育ビジョン』策定に関わった。

児童虐待は増加の一途

令和4(2022)年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)は219,170件で過去最多です。

---- 令和2年度から3年度にかけて児童虐待相談対応件数が横ばいですが、なぜですか?

(加賀美理事⻑)この解釈には注意が必要です。⼦どもたちが家に引きこもった状態となる不登校の件数は同じ時期に10 万件近く増えています。この状況で児童虐待だけが増えていないとは考えにくいと思います。児童虐待相談対応件数は、児童相談所が通告を受けて、虐待があったかどうか調査し、虐待と判断して対応した件数です。その増加率が減ったというのは、拡⼤するコロナ禍で、家庭内⼦ども虐待の問題への関⼼が薄れてしまった、そういう要因があるのではないかと考えています。

通告されない子どもたち

---- この21万9千という数に⼊らない、虐待を受けているのに通告されない⼦どもはいますか?

(加賀美理事⻑)おそらく通告の対象とならない⼦どもたちはその数倍いるでしょう。⽇本より約 30年前、1960 年代から児童虐待問題に取り組んでいる欧⽶では児童虐待防⽌の対策・活動が進んでいます。そんな欧⽶では、⼈⼝のおよそ1%程度の⼦どもが虐待を受けていると統計的に分かってきました。つまり、アメリカでは 300 万件、イギリスでは 50〜60 万件、カナダでは 30 万件の児童虐待報告件数がある、この 1%という割合を考えれば、我が国においても125万⼈(⽇本の⼈⼝約1億2千500万⼈の1%)の⼦どもが何かしらの虐待を受けている可能性があります。しかし、実際の虐待相談対応件数はこの6分の1に過ぎません。

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加賀美理事⻑

児童虐待の種類や相談件数の内訳

---- 山梨県内では、どのような状況でしょうか?

(⾼橋さん)⼭梨県⼦ども福祉課の資料によれば、2022(令和4)年度の山梨県における児童虐待相談対応件数は2,212件と、過去最多であった前年度よりは減少しているものの、依然として高い水準にあります。
ここでいう児童虐待は、⾝体的虐待、性的虐待、⼼理的虐待、ネグレクトといった児童虐待防止法に定義されたもので、これらはそれぞれ単独で、あるいは、複合的に⾏われることがあります。その中の多くは、主たる虐待が⼼理的虐待やネグレクトであり、これは全国的にも同じ状況です。
(児童虐待防⽌法 第2条では、児童虐待として以下の4つの⾏為類型を規定しています)

・⾝体的虐待...児童の⾝体に外傷が⽣じ、⼜は⽣じるおそれのある暴⾏を加えること

例)蹴る、殴る、熱湯をかける、たばこの⽕を押しつける、アイロンを押しつける、寒いのに外に出して部屋の中に⼊れない など

・性的虐待......児童にわいせつな⾏為をすること⼜は児童をしてわいせつな⾏為をさせること

例)性器や性交を⾒せる、⼦どもの裸を撮影する、⼦どもへの性的暴⾏、性的⾏為 など

・ネグレクト...児童の⼼⾝の正常な発達を妨げるような著しい減⾷⼜は⻑時間の放置、保護者以外の同居⼈による身体的虐待、性的虐待、心理的虐待と同様の⾏為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること

例)重⼤な病気になっても病院に連れて⾏かない、幼い⼦どもを家に残したまま頻繁に外出する、⼦どもを⾞内に残して遊びに⾏く、⼦どもを家に閉じこめて学校に⾏かせない、⼦どもへの愛情遮断、健康を損なうほど⼦どもの⾐⾷住に無関⼼・怠慢

・⼼理的虐待...児童に対する著しい暴⾔⼜は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者(事実婚にある者を含む)に対する暴言・暴⼒その他の児童に著しい⼼理的外傷を与える⾔動を⾏うこと

例)⾔葉による脅かし、脅迫、無視、拒否的な態度を⽰す、⼦どもの⼼を傷つけたり⾃尊⼼を損なうようなことを⾔う(「バカ」「役⽴たず」「親の顔が⾒てみたい」「お前なんか生まれてこなければよかった」など)、仲間外れにする、⼦どもの前で激しいケンカや暴言・暴⼒をふるう、兄弟間で著しく差別的な扱いをする など

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(令和4年度⼭梨県の児童虐待の内容、被虐待児童の年齢)
出典:令和4年度⼭梨県における児童虐待相談の対応状況

児童虐待の背景は1960年代

---- 児童虐待が増えている背景には何がありますか?

(加賀美理事⻑)虐待は、家庭の⼦ども養育問題であると私はよく⾔っています。児童虐待問題の根っこの部分は1960 年代にさかのぼります。⾼度経済成⻑期、⾦の卵と呼ばれた若者たちがたくさん都市部に移り、成⼈して結婚する核家族が全世帯の2/3を占める程に増えました。それまでの⼦育てに親戚や地域のコミュニティが関わった時代から、核家族の中で孤⽴して⼦育てが⾏われる時代に移り変わります。その中で、育児ノイローゼという⾔葉が⽣まれたり、折檻や⺟親の蒸発がニュースになり、コインロッカーベイビー事件が起こりました。当時、児童養護施設にも養育に問題を抱えた家庭の⼦どもが多く預けられるようになりました。これはあくまで象徴的に話しているのですが、1960 年代、70 年代、第二次ベビーブームの時代を迎えてから、コインロッカーベイビー世代が中学⽣になる70 年代、80 年代に何が起こったかというと、⾮⾏の低年齢児化です。「積⽊くずし」という⾮⾏少⼥のテレビドラマが⼀世を⾵靡した時代です。このドラマが影響したとは私はあえて申し上げませんけど、コインロッカーベイビー世代が中学⽣になると積⽊くずし世代に化けて、その時代に中学⽣や⾼校⽣を中⼼にした暴⾛族やシンナーの乱⽤なども増えます。積⽊くずし世代が被虐体験の第⼀号とすると、ざっくり⾔えば、その⼈たちが90年代以降⼦どもを産み育てるようになり、⾃分たちが受けた養育体験をその⼦どもにもしてしまう。そのようにして児童虐待は連鎖していると考えています。21世紀に⼊って、結愛(ゆあ)ちゃん、⼼愛(みあ)ちゃん事件が4代⽬ということになります。
⼥性は家庭内でも孤独に⼦育てをしてきました。⼦どもを産むと⺟親になれるという神話、⺟性神話・⼥性神話がありましたから。それは養育を体験した周りの⼈から聞いて初めて親としてのあり様を知ることであって、最初から⾝体の中に備わっているものでもない、もちろんある程度はあるかもしれないけど。⼦育てする親の孤⽴というのがひとつには虐待問題の根底にあるでしょう。

筆者註)
「結愛ちゃんの事件」
2018年3⽉、東京都⽬⿊区で虐待を繰り返し受けていた5歳⼥児が死亡した事件。養⽗は凄惨な虐待を繰り返す⼀⽅で、「ゆるしてくださいおねがいします」といった反省⽂を書かせていた。

「⼼愛ちゃん事件」
2019年1⽉、千葉県野⽥市で⾷事や⼗分な睡眠を取らせず、⻑時間浴室に⽴たせて冷⽔シャワーをかけるなどの虐待を受けて10 歳⼥児が死亡した事件。傷害致死罪などに問われた⽗親に懲役16年の刑が確定した。

経済を中心とした社会と「人間の育ち」

---- 経済を中心とした社会の形成と児童虐待問題は関係があるということですか?

(加賀美理事⻑)はい。経済を中⼼とした社会を形成すると、家族の構造が壊れていく、⼦どもへの不適切な養育が起こる、という⽟突き現象です。それが次の世代へ連鎖していきます。これは⽇本だけの現象ではありません。世界でも同じ現象が⾒られています。⽬指すところはお⾦、お⾦こそが幸せそのものであるという価値意識にみんなが突っ⾛っていく。そんなモノ・カネ社会では、とたんに家族の構造が壊れます。今でも、家庭が経済的に(⾦銭的に)豊かになれば⼦どもが幸せになる、給与が上がれば家庭が⼦どもが幸せになる、という考えが⼦ども政策の基本となっているように⾒受けられます。それがほとんど功を奏さないということが分かっていても。経済で得られた果実は⼦どもの養育に配分すべきです。経済の発展のために、その結果として⼦どもの養育にダメージを与えたとしたなら、それによって⽣じた富を⼦どもの養育に再配分する、それを上⼿にするのが本当の福祉政策です。将来に渡って影響があるのが⼈間の育ちだということを考えると、真っ先に⼈間の育ちにお⾦を使うことが⼤事です。

児童虐待をする人もまた虐待的対人関係を経て親になっているケースが多い

---- 虐待する親について教えてください

(加賀美理事⻑)⼦どもに虐待をする⼈もまた被虐待的な対⼈関係を経て親になっている状況が少なくありません。すべてのケースとは⾔いませんが、虐待の根源は幼少期のトラウマ体験にあるとも⾔われます。⼦どものときに養育者との間でひどい恐怖を経験すると、⾃分を守るために瞬間的に脳の中にそれを冷凍保存、その記憶を封じ込めてしまう。ところが、親になって⼦どもとの関わりの中で過去の⾃分の体験が重なってしまった瞬間に、冷凍してあった記憶が溶け出す、といった表現をする専⾨家がいるんですが、それが怒りとなって⼦どもに向かってしまう。そういう虐待の連鎖があるのも事実です。

---- 児童虐待を食い止めるために必要なことはなんですか?

(加賀美理事⻑)⼦育て家族が社会から孤⽴しない、親になっていくことを社会が⽀えていくことです。⼈と⼈とが助け合う共助・共存は⼈間社会の基本的な部分ですが、今は他者とつながる⼒が弱くなっています。虐待を防ぐには、虐待せざるを得ない状況にある親をその状況から脱するための⽀援を行っていくことが必要になります。しかし、過去にあったことを⾃分の⾔葉で振り返られるような、過去に体験した残念な体験を少しずつ解体していくような親への⽀援プログラムが、⽇本にはあまりありません。たとえば、親が抱えるアタッチメント形成に関する課題に触れて、クリニックで治療プログラムを受けてもらったり、家庭⽀援でも「こういうときはこういう⾵にした⽅がいいよ」「ちょっと休んで。こっちで預かるから」と信頼関係を作ったり、草の根的ですが、そういう⽀援の場が全国に必要です。

児童虐待を食い止めるために。アタッチメント形成

---- アタッチメント形成について教えてください。

(加賀美理事⻑)J.ボウルビィというイギリスの精神医学の先⽣が初めてアタッチメントという⾔葉を使いました。アタッチメントとは、⼦どもが親や他者など特定の⼈に対してもつ情緒的な絆、安⼼・信頼感です。豊かなアタッチメント形成は⼦どもの⼼の健やかな発達を促し、不⼗分・不健全なアタッチメント形成は⼦どもにやがて⼼理的、社会的問題を抱えさせるようになります。その⼦は⾃⽴しにくくなり、助けてと⾔えなくなります。そして、乳児期、幼児期のアタッチメント形成はとくに重要であることが分かってきました。

---- 2022 年度における⼩中⾼⽣の⾃殺者数は514 ⼈と、1980年に統計を開始してから過去最多となりました。少⼦化にもかかわらず⾃殺する⼦どもが増えているのは、コロナ以外にどのような原因はありますか?

(加賀美理事⻑)コロナの影響も⼤きいでしょうが、それ以前から⽇本の⼦どもの幸福度は低いです。コロナ前にも、⽇本の⼦どもの「精神的幸福度」は世界ワースト2位*といったユニセフのリポートがありましたね。その背景のひとつには、養育の問題があると考えられます。虐待問題の根っこには、⼈と⼈とのつながりがなかなかもてない社会、つまり、応答的な関係がつくりづらく希薄になってしまう、アタッチメント形成がしづらい社会というのがあります。そのため、他者とつながることができない⼦どもたちが増えている。⼈とつながれない典型例が引きこもり、不登校ですが、そういった状況の中で、死んじゃった⽅がいい、と悲しくも考えてしまう⼦が増えているのではないかと思います。友達とも先⽣とも実の親ともつながれなかった、社会の中で⼈間として育つことをできなかった⼦どもたちがとても増加しているとしたら、これは社会の問題です。社会が⼦どもを養育できていないという問題です。

*ふじのーとの既出記事『子どもの「精神的幸福度」、日本は世界ワースト2位』もご参考下さい。

地域総合子ども家庭支援センター・テラの活動

---- 地域総合子ども家庭支援センター・テラさんの活動の内容を教えてください。

(加賀美理事⻑)当法⼈は、1940(昭和15)年に⽇蓮宗遠光寺(甲府市伊勢町)の第44世住職が境内に⼭梨⽴正保育園を開設したのがはじまりです。その後、助産所、⺟性及び乳幼児健康相談所(診療所)、授産所、児童⽂庫(学童保育)、保⺟養成所を設置しましたが、それらすべてを甲府空襲で焼失し、以降、保育所を再建、乳児院、児童養護施設、⺟⼦⽣活⽀援施設、児童家庭⽀援センターを設⽴するなど、その時代のニーズにあわせて⼦ども家庭福祉事業に取り組んできました。

2021(令和3)年4 ⽉、家庭が地域とつながりながら⼦どもを養育するための⽀援を提供することを⽬的に、地域総合⼦ども家庭⽀援センター・テラを開設しました。ここには児童福祉法に定める児童家庭⽀援センターに加え、フォスタリング機関(⾥親養育包括⽀援機関)、⼦ども家庭ソーシャルワーク専⾨職養成研修・研究所、さらにこれらの事業の機能を補完し、強化する役割として、⼦どもの⼼のクリニック・テラが設置されています。

① 在宅⽀援事業、② クリニック、③ ⾥親養育包括⽀援事業、④ 研修研究所

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(⾼橋さん)⼦育て家庭の社会的孤⽴や児童虐待を防ぐための在宅⽀援が、当センターの核となる事業です。親⼦分離の必要はないが⾒守りを要すると判断された家庭などに、定期的にスタッフが訪問して部屋の⽚付けを⼿伝ったり、料理や家事を⼀緒にしながら信頼関係を築いて、養育⼒の向上や親⼦関係の形成や回復に向けて共に歩んでいきます。その他、ショートステイ専⽤棟を使って、宿泊を伴う養育⽀援(子育て短期支援事業)も⾏っています。

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社会福祉士の高橋さん

(⾼橋さん)⾥親養育包括⽀援(フォスタリング)では、親の病気や虐待など何らかの事情で親の下では暮らせない⼦どもに⾥親養育を提供、それを⽀える活動を⾏っています。アタッチメント形成等の観点から、2016(平成28)年の児童福祉法改正により親⼦分離した⼦どもは施設ではなく、⾥親家庭での養育が原則となりました。現在⼭梨県では、実親と暮らせない⼦どもは 300⼈くらい、その内、⾥親家庭で⽣活している⼦は約100⼈、施設で暮らしている⼦が約200⼈です。⾥親養育への転換を進めるために、各市町村の協⼒をいただきながら⾥親相談会を開催し、地域の皆様に⾥親養育制度に関する説明と⾥親になるための案内、研修、受託後の養育支援を実施しています。
⼦どもの心のクリニック・テラでは⼩児・児童精神科、⼩児科を開設し、虐待など厳しい養育環境により⾃⼰肯定感を損ねてしまったり、対⼈関係で困難を抱えている⼦どもへの治療的⽀援を⾏なっています。

(加賀美理事⻑)このクリニック院⻑の奥⼭先⽣は⽇本⼦ども虐待防⽌学会の理事⻑をやられていた⽅で、国⽴成育医療センターの副院⻑、⼦どものこころの診療部⻑として、⻑く⽇本の⼦どもの虐待問題に先陣を切ってきた⼈です。
⼦ども家庭ソーシャルワーク専⾨職養成研修・研究所では、⼦ども家庭福祉関係者を対象にした研修と、児童虐待や⾥親養育を含む家庭養育等に関する調査・研究を実施しています。⼦ども家庭福祉では⼦どもの権利擁護と親の思いやニーズが対⽴する場⾯での調整が主な課題です。たとえば、⾝体的虐待の多くが「しつけ」として⾏われているように、親が⼦どものためにしている判断や⾏動が、⼦どもの権利や利益につながるとは限りません。そのため、⽇々の暮らしの中で困難を抱えている⼦どもの状態を、発達権保障という観点から捉えること、そしてその困難の解消を、福祉的ケアや保健・医療的ケア等の連携、協働によって実現するためのソーシャルワークを確⽴することが求められています。当研修・研究所では現在、⼦ども家庭福祉関係者が本領域の実状に即したソーシャルワークを検討、実践するための「⼦ども家庭ソーシャルワーク専⾨職養成研修」(全10回/年度)を開講しており、また、2022年度から⼭梨県より委託された児童相談所職員・市町村子育て支援担当職員を対象とした研修(「児童福祉司等及び要保護児童対策調整機関の調整担当者の研修」)を実施しています。

----ショートステイ(⼦育て短期⽀援事業)について教えてください。

(加賀美理事⻑)在宅⽀援をしていく上でもう⼀つのツールとして、児童養護施設のホームとは別に、ショートステイ専⽤の家を設けました。これまでもお⼦さんを預かる制度はあったわけで、それは出張や冠婚葬祭で遠いところへ⾏くのでその間、⼦どもを預かってほしいといったニーズに応えるものでしたが、⽇々の親⼦関係を回復するためのショートステイはあまりありませんでした。先ほども触れたように、親⾃⾝もまた乳幼児期に残念な体験をしたというケースが少なくありません。そういう⽅たちが子どもを養育するというのは⼤変なエネルギーが必要で、持続するのはなかなか難しい、疲れてしまう。そのようなときに虐待が起こるということですから、⼀時的にお⼦さんをお預かりする、「少し休んでね」っていうことです。

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ショートステイ施設

---- 2016 年の児童福祉法改正では、加賀美理事⻑は厚⽣労働省の専⾨委員メンバーとして、その策定に関わる重要な提⾔をされました。テラさんの活動の基本となる考えを教えてください。

(加賀美理事⻑)親が自身の辛い体験を乗り越えるための仕組みをどう作るか、が肝なんですね。戦後 70 年間、⽇本は戦災孤児保護対策の領域をずっと出ませんでした。つまり、旧児童福祉法はすべて国⺠は⼦どもを愛護せよ、と⾔っている。つまり保護です。その施策が中⼼で 70 年間突っ⾛った。ところが家庭は核家族など形をどんどん変えて、⼤事だったのは保護施策ではなくて、⼦どもの養育施策を充実させなければいけなかった。そういう背景で、保護から養育へというキャッチフレーズで児童福祉法がやっと改正されました。その第⼀条は〈すべて児童は、適切に養育され、発達する権利を保障される〉と謳っています。そしてそのためには、⼦どもが健全に育つようにその保護者を⽀援しなければならない。第三条の⼆には、〈国及び地⽅公共団体は、児童が家庭において⼼⾝ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を⽀援しなければならない。それが困難である、適当でない場合は、児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において、児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるように、必要な措置を講じなければならない。〉といった内容が規定されています。家庭養育原則と言います。

それを実⾏するために当センターがあります。まずは家庭⽀援を核として、虐待を受けた⼦どもをケアし、虐待してしまう親へのケア、必要な治療を⾏います。このような施設が全国で増えないといけませんね。専⾨的な知識をもったスタッフが必要になりますので、⼦ども家庭福祉ソーシャルワーク専⾨職養成研修・研究所を併設しました。県・市町村や児童福祉施設、その他の⼦ども家庭福祉分野の職員を対象に、研修を⾏っています。

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改正児童福祉法の理念と『新しい社会的養育ビジョン』に基づいて、地域総合子ども家庭支援センター・テラを開設

(加賀美理事⻑)厳しい状況にある人の本当の⼼の中に隠れていることは、「助けて」なんです。助けてください。これを⾔ってもらえるような対⼈関係を作ることが我々の仕事です。ぜひお願いします、という声をかけられることが私たちの仕事です。⾃⽴とは依存の優れた形である、と私は⾔い続けています。⾃⽴と依存って真逆のように捉えられがちですが、正しく依存できることが⼤事です。私たちや市町村の窓⼝はそういった状況で頼ってもらえるよう、研鑽を積んでいきます。

---- 2016年の児童福祉法改正が、「こども家庭庁」設⽴の礎になったと思いますが、発⾜したこども家庭庁にどのようなことを期待しますか?

(加賀美理事⻑)こども家庭庁発⾜でも、配分したお⾦がどう経済を回すかを打算的に考えるのではなく、経済活動の実りを⼦どもの養育へ還元する、現場のマンパワーへ使っていく環境を整えていくべきですね。

Article written by ヒノキブンコ

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